目覚めよと呼ぶ声あり
「地下牢にカンオケってね。おーおー、気分出てるじゃないの」
神羅屋敷の地下は、まるで迷路のように入り組んでいた。オマケにどよよ〜んとした空気がこもっている。
こういうところははっきり言って苦手だ。
タークスにでも任せておきたいところだが、村の7不思議を解いてやると、坊主と約束しちまったから仕方がない。
俺はカンオケのひとつに近づいて、蓋に手をかけた。
うげ。これってバノーラで墓暴きやったツォンと一緒じゃないか。タークスって汚れ仕事を一手に引き受けてるから、
給料はいいらしい。でもここで同じことやったって、俺の給料は別に上がらないんだよな。
そんなことを思いながら、力を入れる。
開かない。
おいおい、ソルジャー1stの力で開かないカンオケって、魔法でもかかってるのか?!
そう思ってよく見てみると、小さな鍵穴が目に付いた。
「ふーん」
俺はサハギンが落っことしていった小さな鍵をポケットから取り出してみた。これがぴったり合っちゃったりしたら
できすぎだよなーと思いながら、鍵穴に差し込む。
…はまっちゃったよ。
小さな鍵はスムーズにくるりと回り、錠の外れるカチリという音がした。
重たげな蓋が、ずごごご…とスライドして開いていく。
俺は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「だ、誰か眠っている…!」
長い黒髪に深紅のマントのすっごい美人!
と言いたいところだが、こりゃどうみても男だよな。この人が、「恐ろしいうめき声」の主なのか?
しばらく待ってみたけど、スリーピングビューティはうんともすんとも言わなかった。うめくどころか、すやすやと
気持ちよさそうに眠っている。
毒リンゴでも食わされたのか、糸紡ぎの針で指を刺したのか。御伽噺なら、かっこいいナイトの熱いキッスで姫君
は目覚めると相場は決まっているんだが。相手が男じゃ全然その気になりゃしない。
「もしもーし。朝ですよー?」
今が朝かどうかは別にして、ちょっと声をかけてみたが起きない。
ハナでもつまんでやろうかとカンオケの上に身を乗り出した時、腹に何か堅いものが押し付けられるのを感じた。
目を向けると、予想通り銀色に光るオートマチック銃。
もう一度視線を戻すと、紅い瞳がひたりとこちらを睨みすえていた。
「おおお邪魔してます」
思わず愛想笑いを浮かてホールドアップしながら、俺はゆっくりと身体を元に戻す。相手は銃口を少しもぶれ
させることなく、なめらかな動作で起き上がった。
「…私を悪夢から呼び起こすのは、誰だ」
キレイな顔に似合わない重低音の渋い声。俺はちょっぴりがっかりして、がっかりした自分に驚いた。
「えーと、ソルジャークラス1st、ザックスですぅ」
「…ソルジャー?」
「知らないのかよ? 神羅の精鋭部隊だぜ!」
「…………」
神羅の名を聞いた途端に、胡散臭そうに俺を見ていた紅い瞳の表情が変わった。驚き、苦渋、そして悲しみって
感じだろうか。
「もしかして、あんた、神羅の関係者?」
「…もはや神羅と関わりを持つ気はない。出て行け」
紅い瞳の美人は銃を降ろすとさっさとカンオケの中に戻ってしまった。重い蓋がまたずごごごと動いて、その姿を
すっかり隠してしまう。
俺はあっけにとられたままそれを眺めていた。
自分からこんなところのカンオケに閉じこもるヤツっているか?もしかして、引きこもり中の幽霊だったんだろうか?
どっちにしろ、これじゃ7不思議の答えにはなっていない。
「もしもーし、ひとつ聞きたいことがあるんだけど?」
俺はカンオケの蓋をガンガンと叩いた。返事がないので思いっきり力を入れて揺さぶり、しまいには上に飛び乗って
飛び跳ねてやった。
『うるさい!』
「起きてんなら返事ぐらいしろよ」
『……何だ』
「地下から聞こえてくる恐ろしいうめき声って、あんたのこと?」
『…悪夢にうなされる長き眠りこそ、私に与えられたつぐないの時間』
「はい? 気持ちよさそうに寝てたじゃないか」
『……たまには安眠できる時もある』
「しまらない7不思議だなぁ」
『………』
「なあ、それじゃ坊主に話すのに迫力ないんだけど?」
『………』
「おい、人が話してんのに返事ぐらいしろよ」
俺は沈黙してしまったカンオケを両拳で連打した。剣を使う方が得意だが、アンジールに仕込まれたおかげで
拳もけっこういけるんだぜ。ソルジャーの誇りを見せてやる。おらおらおらァ!
カンオケの蓋は雷のような音を立てて、ちょっとしたドラマー気分だ。
『…うるさい!さっさと出て行け』
「せっかくここまできて、あんたのイビキでしたってのはつまんないだろ」
『イビキなどかいた覚えはない』
「村の坊主に謎解きしてやるって約束してるんだよ。協力してくれよ」
『………』
「なんか、俺がテキトーに話作っといてもいいか?」
『…好きにするがいい』
よっし。それじゃ好きにさせてもらうぜ。
俺は立ち上がって部屋の中を歩き回りながら話の構想を練り始めた。
こいつの持っていた銃はクイックシルバーっぽかったな。あれはタークスの標準装備だ。
タークスだったヤツが何かの事情でマッドサイエンティストに改造され、神羅を恨みながら地下で眠りについている。
こんなのはどうだ?ホラーっぽくていいかもな。
俺は、意気揚々と考え付いたシナリオをカンオケに向かって語ってやった。
「坊主のリアクション、話しに来てやろうか?」
俺の言葉が終わらないうちに、カンオケから銃弾が飛んできた。目標視認もしないで、声と気配だけで狙撃してきた
らしい。
間一髪それを避けた俺は、思わず顔がほころぶのを止められなかった。
けっこう面白いヤツじゃないか。今回のミッションが終わったら、引きずり出して仲間にしてやるぜ。
「必ず迎えに来てやるからな。待ってろよー!」
『二度と来るな!!』
カンオケから響いた怒号はもちろん無視して、俺は地下牢から外へ滑り出た。
次はクラウドも連れてきてやろう。
初出 H19年10月17日
加筆修正 H20年1月5日
CCで楽しみにしていたミッションのひとつです。ヴィンのヴの字も出ませんでしたが、DCがなければこんな風に取り上げてもらえ
ることもなかったのでは。そして意外に安眠している彼に大爆笑でした。この先の悲劇が分かっているのであんまり進みたくない
ニブルヘイムでしたが、まさかヴィンセントに和ませてもらえるとは意外です。ACのおとぼけぶりが垣間見えてちょっと嬉しかったり
して。無印本編で「元ソルジャー」と名乗ったクラウドにヴィンセントは「君も元神羅か」と答えていますが、彼は「ソルジャー」を
知らないはずなんですね。「ソルジャー」が神羅に属している情報はどこから得たのかしら。ヴェルドさんに教えてもらったのかな。
という疑問があったので、ザックスに解決してもらいました。ザックスと服装も同じだし、クラウドが名乗るのを聞いてヴィンセントの
頭の中にはソルジャー=神羅というのが繋がったのではと思ったわけです。ヴィンセントとザックスの話を書きたいのですが、
自分でも納得できるシチュエーションが思いつきません(涙)。