怖いのはどっち…?





 セブンスヘブンの扉につけられているチャイムが涼やかな音を立てる。

「あ、帰ってきた!」

「お帰りなさーい!」
 室内に大小さまざまなカボチャの飾り付けをしていた小さな二人が、揃って入り口に突進した。
彼らの目の前に降ろされたのは、紫を基調にした羽毛に覆われた巨大な鳥。

「すっげー。でかいな」
「羽、ふわふわだよ」

エピオルニスの長い首と脚を絡めて担いできた男は、無邪気に喜ぶデンゼルとマリンの様子に夕日色の瞳を和ませる。

「こんなに大きければ、みんなで食べられるね」
「ああ」
「父ちゃんとシドがいても、大丈夫だね」
「そうだな」


 料理が足りるかどうかをマリンにまで心配される健啖家の二人を思って、ヴィンセントは失笑する。
そこへフェンリルを片付けてきたクラウドが戻ってきた。飛びついてきたデンゼルの髪をくしゃくしゃと撫で、運んできたライフルを
持ち主に渡す。


「おかえりなさい」

厨房で料理の仕込みをしていたティファが顔を出した。

「随分大きいのを捕まえたね」
「ああ。ヴィンセントがいたからな」

クラウドは同行者に片頬で笑ってみせる。

「俺は群れを追いかけてフェンリルを飛ばすだけでよかった。あとは腕のいいスナイパーに任せただけだ」

 ハロウィンパーティの料理に使うために、ティファはエピオルニスを捕ってくるようクラウドに注文を出した。
逃げ足の速い獲物をひとりで捕まえる苦労をしたくなかったクラウドは、ヴィンセントを召還して狩りに付き合わせた。
巨大な鳥を抱えてバイクでタンデムなどという離れ業は、この二人だからこそできたと言える。

丸々と肥ったエピオルニスは、パーティ料理の主役が十分に務まりそうだ。冷凍保存すれば、しばらくはセブンスヘブンのメニュー
を賑わせるだろう。


「…これで用は済んだな」

背を向けて帰ろうとするヴィンセントのマントをティファがしっかりと掴む。

「何言ってるの。これじゃ料理できないじゃない。頭と脚落として、羽むしってくれなくちゃ」
「………」

嫌そうな顔をする相手に、ティファは笑みを浮かべながらたたみかける。

「もちろん、ただとは言わないわ。カボチャと鶏肉のシチューにとっておきのワイン。これでどう?」

 どうせ予定もないのだから、ハロウィンのディナーぐらい付き合ってと押し切られ、ヴィンセントは渋々従った。





「雪みたいだねー」
「…マリン、デンゼル、こっちに来るなよ」

 タオルで髪を覆いマスクをしたクラウドが、掃除機で舞い散る羽毛を吸い取りながら警告した。その隣では、同様に長い黒髪を
タオルに包み、マスクをしてマントを脱いだヴィンセントが黙々とエピオルニスの羽をむしっていた。

何しろ図体が大きい上に冬を控えて綿毛がたっぷりと全身を覆っているので、手間がかかる。

「羽でクッション作るから、ごみまで吸い込まないでね」
「…努力はする」

次々と出されるティファのオーダに、クラウドはぶつくさ言った。

「これならもっと小さいのにすればよかったな」
「同感だ」

ガントレットの爪で器用に逆毛を立てさせ、手際よく作業を進めるヴィンセントも同意する。

「肉屋でさばいてもらえば、もっと楽だったのに」
「…何故そうしない?」
「ティファが、お礼に一番いいところを持って行かれるから嫌だって言うんだ」
「…次からは、二羽仕留めて一羽くれてやれ」
「それ、賛成だな」

じゃあクリスマスの時もよろしく、と言ったクラウドにヴィンセントは眉をしかめる。

「……三羽仕留めてやるから、宴会は勘弁してくれ」
「そんなに一人で運べるわけないだろう」
「シドの飛空艇でも呼べばいい」
「あいつが来て、あんたが逃げられると思うか?」
「………」
「いい加減あきらめろよ。たまの宴会ぐらいつきあえ」
「…酔っ払いの相手をしなくてすむならな」

珍しく感情のこもったヴィンセントのぼやきを聞いて、クラウドは小さく笑い出した。
 アルコールの効かないヴィンセントに、出来上がったシド、バレット、ユフィがしつこく絡むのはいつものことだった。
いい酒を静かに味わって飲みたい彼に、うわばみ連中は飲め呑め飲めと一気飲みを強いる。


「あんた、一人で素面だからな。酔いつぶれたフリでもしてみたらどうだ?」
「それこそ、ユフィやティファに何をされるかわからんな」

 どこか似たところのあるクラウドとヴィンセントは、多くを語らなくてもお互いに通じ合うものがあるようで、一緒にいると何となく
落ち着くらしい。

マスク越しのくぐもった声でぼそぼそと他愛のない話をしながら、二人は羽をむしり続ける。





 デンゼルは切ないため息をついて、その二人の様子を見ていた。
クラウドにヴィンセントは、エッジの子供たちの間では押しも押されぬヒーローだ。その二人と近しい関係にあることが彼の誇りでも
あった。

それなのに。
 彼の思いをよそに、ヒーローの自覚の欠如したこの二人は平気で女性の尻に敷かれている。
最初、裏庭で作業をしようとした二人を懸命に止めたのは、デンゼルだった。そこは、近所の遊び仲間の通り道になっている。
頭にタオルを巻いて、料理に使う鳥の羽をむしる二人の姿など、友達には絶対に絶対に見せたくない。
羽が散ってご近所の迷惑になるからと同意してくれたティファの言葉が、どれほど救いになったことか。
無頓着な二人の名誉を守るために、何かと心を砕いているデンゼルなのであった。

 しかも、所帯じみた情けない会話。ヒーローならば世界を救うための雄々しい計画とかを語り合っていて欲しいのに。

「そんなの、無理よ」

デンゼルの胸中を見透かしたように、マリンがすまして言った。

「だって、ティファは強いもん」
「でも、ジェノバを倒したのはクラウドだし、オメガを止めたのはヴィンセントだぜ!」
「だって、ここはおうちだもん」

 セブンスヘブンの中で一番偉いのはティファだと、マリンは断言する。




「そう言えば、ヴィンセント。あれ、捕まえてきてくれた?」

 野菜を洗いながら問いかけるティファに、ヴィンセントは目線で店の一角を示した。
彼のマントがかけてある椅子のそばに、小さな箱が置かれている。

「魔力は封じてある」
「ありがとう」

ティファはタオルで手を拭くとカウンターから出て箱を取り上げた。




「ほらね」

 二人の目の前で、ティファとの力関係を証明してしまったヴィンセントに、デンゼルはがっくりと肩を落とす。
マリンはくすくす笑いながら、面白そうな箱を手にしたティファのそばにまとわりついた。

「何なに?」
「見てのお楽しみ」

 ティファは悪戯っぽく笑って箱をそっと開ける。
中から現れたのは、3匹のファニーフェイス。カボチャ頭にピンクのリボン。そしてスカートを思わせるような下半身。
ニブルヘイムの神羅屋敷に出没し相手を混乱に陥れる「ファニーの息」が厄介だが、セブンスヘブンに出入りする英雄たちにとって
は取るに足らないモンスターだ。

 ティファはハロウィンパーティに集まる仲間のカンバセーションピースに、ファニーフェイスを使うことを思いついた。
「二,三匹捕まえてきて」と頼まれたヴィンセントは、滅多に使わない麻酔銃を手に神羅屋敷を訪れたという訳だった。


 三匹は怯えたように固まっていたが、やがてふわりふわりと店の中をただよい始めた。


「うわぁ〜、ちょっと怖いけど、かわいい!」
「他にはいないよな。こんなジャックランタン!」

 ちょっぴり気が滅入っていたデンゼルも、思わぬお土産にカウンターから飛び出した。
マリンと共に初めて見るファニーフェイスに視線が釘付けだ。

 カボチャ頭のモンスターたちは、力量の違いが分かるのかクラウドやティファには寄り付こうとしない。しかし、相手が子供となると
バカにしたらしい。中の一匹がマリンに急接近し、口を開けて威嚇した。

驚いたマリンが小さな悲鳴を上げる。デンゼルが咄嗟に彼女をかばう。

 ヴィンセントは顔を上げると、片手で鳥の羽をむしり続けながら銃を引き抜いてファニーフェイスを撃ち落した。
問答無用で処罰されたモンスターは、きりきり舞いをしながらカウンターの上に落下し動かなくなる。

「…鳥肉の割りにカボチャが少なかったし、ちょうどいいわ」

 ティファは厨房に戻ると無造作にファニーフェイスを水洗いし、鮮やかな包丁さばきで一口大に切りそろえて他の野菜と一緒に
なべに放り込んだ。






「今の見たか? ハロウィンが終わったら放してやるから、おとなしくしてろよ」
何事もなかったかのように作業を続けるヴィンセント。鼻歌を歌いながらなべをかき回しているティファ。
二人を見比べながら震えているファニーフェイスをなだめるように、クラウドは声をかけた。
モンスターたちはクラウドに擦り寄り、こくこくと頷いてみせる。



「…このくらいでいいだろう」
 服についた羽を両手ではたきながらヴィンセントが立ち上がった。掃除機を片手に羽を吸い取り始めた彼にうなづき、クラウドは
バスターソードを取り上げた。

 気合と共に振り下ろされる大剣。
エピオルニスは頭と脚を落とされ、身は骨ごとキレイに8分割された。

「さすがだな」

 掃除をしながらヴィンセントが感心する。クラウドは剣を振ってスペシャルポーズを決めて見せた。

「デリバリーサービスやめても、肉屋で食っていけるかもな」
「羽をむしらなくていいなら、獲物を届けてやってもいい」

二人は掃除機でお互いの服についた細かい羽毛を吸い取り始める。

「羽は羽で売り物になるよな」
「…いっそのこと、エピオルニスを飼ったらどうだ」

業務用の保存袋に扱いやすい大きさになった鶏肉を収めながら、ティファが釘を刺す。

「その世話は、もちろん二人がするのよねえ?」

のどかに談笑する、星を救った英雄たち。



その頭上では、哀れなファニーフェイスたちが怖さに身を寄せ合って泣いていた。

魔よけにジャックランタンを掲げる必要などまったくない最強の店。それがセブンスヘブンであった。






                                                                 2007/10/28
                                                            syun





ファニーフェイス=ジャックランタンというのは、誰でも考えるネタかと思います。ファニーを従えたヴィンセントがいたらもうそれだけで立派にハロウィン
な感じ。モップに跨って魔女のコスプレしたシドがいたら笑いもとれるかもしれません。いやしかし、それよりCCで嫌というほどダチョウ(レプリコン系
のモンスターたち)にやられたので、「くそー!お前たちなんて羽むしって食べてやる!」と逆ギレしたのが今回のSSのきっかけです(笑)
モンスターの中ではダントツにおいしそうですしね。雷神鳥より「身」が多いし。芋虫(ウォーム系モンスター)も、見かけはああですけど食べたら
おいしいとか?うわぁ、でも捕獲から調理までの描写をしたくなーい(笑)クラウドのバスターソードもねとねとになってしまいそうです。
そうそう、彼のスペシャルポーズのシーンは、どうぞ頭の中で「たたたたーんたーんたーん たったら〜♪」とBGMをつけてくださいましね。
そして、デンゼルもマリンもこの環境で育つと立派な豪傑になりそうです(笑)


Novels.