チョコボスクウェア実況中継







<……いよいよシーズンたけなわとなってまいりました。今月もデビューしたての若鳥たちの、熾烈な戦いが繰り広げられております。
 毎度おなじみゴールドソーサーチョコボスクウェア、レースの実況はスギモト、解説はイザッキさんにお願いしております>

<はい、イザッキです。よろしくお願いします>


<今日の新チョコボ戦は、なんといってもあれですね!>

<そうですね、期待できるチョコボが出てきましたね。これはあのトウホウフハイの初仔ですから、今後の産チョコボの能力を量る上でも
 大事なレースだと思いますよ>


<母の父がハイパーダンサーですから、良血ですしねえ>

<それに、このカイという新チョコボの話題性は他にもあるんです。もともとの持ち主はクラウド・ストライフ>

<おおっ、『星を救った英雄』のひとりですね?!>

<ところが、究極の気性難のために登録抹消の瀬戸際だったのです。それを矯正したのが、今の持ち主のヴィンセント・ヴァレンタイン
 だそうです>


<それはそれは! レース展開と共に舞台裏にも目が離せませんね! さあ、レース場に散っていったチョコボたちが返し鳥を終えて
 ゲート付近に集まってきました。スタート地点から中継をお願いしましょう>


《…はい、こちらスタート地点です。初戦を迎える若鳥たちですが、比較的落ち着いた様子で周回しています。その中でひときわ目立つ
 のがやはりゼッケン8番のカイですね。盛り上がった筋肉と脚の太さが群を抜いています》


<カイはレース以外はヴィンセント・ヴァレンタインの仕事に使われているそうですよ>

<ほほう、それも異色ですね>

<カイが登録された後、チョコボ協会には投書が殺到したそうです。オーナー騎乗による特別レースを作って欲しいという希望が寄せら
 れています>


<それはもちろん、ヴィンセント・ヴァレンタインの騎乗姿を見たいということなんでしょうねえ>

<あの人は殆ど表舞台には現れませんからね。ファンとしてはまさに一石二鳥ということなんでしょうね。カイの様子はどうですか?>

《他のチョコボを威嚇するので、少し離れたところで待機していますね。今、ジョッキーのユフィ・キサラギが拳骨をくれています。
 彼女のピンクと黒の勝負服は華やかですね。背中には愛らしいネコのロゴが入っています》


<このユフィ・キサラギも話題性の高いジョッキーですね。初の女性ジョッキーということで注目を集めています>

<それに彼女も『星を救った英雄』の一人でしたね>

<そうですね。星を救った英雄たちとWROが送り込んできた金色の刺客、はたしてどのようなレースをするのでしょうか。
 スターターが台に上がります。お聞きください!大歓声です!ファンファーレがそれに応えます!
 1600mの新チョコボ戦、8羽で争われます。さあ、どのようなレースになるのでしょうか>


《各チョコボは落ち着いた様子でゲートに引かれていきます。1羽残ったのは大外枠のカイ、ゲート入りを嫌っていますが、キサラギ
 ジョッキー、また拳骨が飛びました。今渋々とゲートに入っていきます》


<各チョコボゲートにおさまりました。係員が離れます。スタートしました!
 ばらばらっとしたスタートになりました。一羽大きく出遅れたのはカイです。ゲートの一部を蹴り壊して、最後方を追走する形になって
 います。

 先頭から見て見ましょう。ハナを切って7番マダムプリン、一鳥身遅れて4番ドラゴンソウルと6番アンクルシンが並んでいます。
 内をついて2番マックスメモリー、その外1番ミスルンルン、5番テクノポップ、半鳥身遅れて3番ダークモス、そのかなり後方をカイが
 追走していると、やや縦長の展開になっております。

 600の標識を過ぎました。先頭代わってドラゴンソウル、マダムプリンはやや後退。マックスメモリーは前が開かないか?ミスルンルン
 とテクノポップが徐々に差をつめてきます。ダークモスがけんめいに追い上げようとしている。
 カイはまだ後方。
はたしてそこからとどくのか?!  鞍上のキサラギジョッキー、一発二発と鞭が入ります。
 1000の標識を過ぎて、各チョコボが徐々に一団となってきました。先頭変わらずドラゴンソウル、マックスメモリーがその後ろにぴたり
 とつけている。ミスルンルン、テクノポップ並んで上がってくる。ダークモスはややおかれたか。

 最終コーナーを回って、今直線に向きました! 4羽横一列に並んで、大接戦です!さあ、このレースを制するのは誰なのか!
 来た来た来た!カイが来たあ!大外を回って、ギアを入れ替えたような素晴らしい脚で駆け上がってきます!
 キサラギ騎手、鞭は使わず何かをカイに叫んでいるようです。このまま一気にごぼう抜き……っとぉ!カイが内ラチ沿いのチョコボに
 襲い掛かるように斜行です!鞍上の拳骨がまた飛びます!
 内ラチを蹴り壊して蛇行しながらも、カイ強い!今一着でゴールイン! 
 二着マックスメモリー、くちばしの差で三着ミスルンルンと入りました。
四着ドラゴンソウル、五着テクノポップと続いています
 ……しかし、審議の青ランプがついています。この競走は審議です。お手持ちの勝チョコボ投票券はそのままお持ちください…>





「どうやら、勝ったようですね」
 テレビから目を離してデスク上のパソコンに向けながら、リーブは満足そうに微笑んだ。
局長室のソファでレースを眺めていたヴィンセントは、対照的に無感動にうなづく。

「あの程度の斜行では、問題にはならないでしょう。心配はいりませんよ」
「心配などしていない」
自分のチョコボが勝ったのにもかかわらず、ヴィンセントはむしろ不機嫌そうだ。その理由を承知していながら、リーブはにこやかに相手
の逆鱗をくすぐる。

「これでますます特別レース参加への要請が増えますねぇ」
「………」
ヴィンセントは聞こえないふりを決め込んで、確定した着順掲示板を無意味に見つめ続けた。

「あなたが断り続けるものですから、今度は私のところに依頼メールが来ましたよ」
「ならば、お前が乗ればいい」
「ははは、何をおっしゃいますやら」
リーブはデスクから勝チョコボ投票券の束をうれしそうに取り出してみせる。
「関係者になってしまったら、買えないじゃありませんか。私のささやかな楽しみを奪わないでください」
ヴィンセントはその束の厚さに意表を突かれて声を失う。
「カイが勝つのはわかっていましたから。倍率が低くても多めに買えば、配当金はそこそこですよ。それに相手にしたマックスメモリーは
 評価が低かったですからね。かなりの額が回収できます」

「…お前がギャンブルとは、意外だな…」
 慎重で常識的という印象が強いWRO局長からは、想像がしにくい娯楽ではある。皮肉を込めたヴィンセントの台詞を笑って聞き流し、
リーブは大金に化ける予定の投票券を大事にしまいこんだ。

 そんな彼らの耳に、勝利ジョッキーインタビューに答えるユフィの声は届いてはいない。


<ヴィンセントぉ? うーん、あいつ人前に出るの嫌いだからねえ。あ、そうそう!ルクレツィアさんから頼んでもらえばいいんじゃない? 
 そしたら嫌と言わないと思うな!>



                                                                            2006/11/20
                                                                 syun






はいっ、お目汚しで申し訳ありません!(笑)でも、カイのその後を読みたいというお声を何人からか頂いたので、また調子に乗って書いてしまいました。
実況中継をすらすらと書けてしまった自分に愕然としました(笑)ああいうのって、ある程度定型文なんですね。オーナーによる特別レースなら実況中継も
念を入れて○本アナウンサーばりに名調子でいきたいものです。ゲームで見ているとチョコボレースってクロスカントリー風ですが、実況しにくいのでトラックに
させていただきました。あれ?ここはFF7のヴィンセントサイトなのに〜!





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